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「お前、どうしたんだ?その傷」
卓郎が目を見開き私の頬と腕のガーゼをまじま じと見つめる。
「あぁ、これ?実は昨日、危うく車に跳ねられ そうになって……。あっ、でも間一髪の所をお 兄ちゃんが助けてくれたみたいなんだ。あんま り記憶ないけどね」
掌でガーゼを隠しながら答える私の手に、卓郎がそっと自分の手を重ねた。
「跳ねられそうにって、お前。大丈夫なのか? 頭とか、どっか打ったりとかはしてないの か?」
「それは大丈夫。でも、この顔ちょっと恥ずか しくて……。本当は休みたかったんだけど、今 日の講義は外せないからね」
「ほんと気をつけろよ」
私の頭にポンと手を乗せた卓郎は、安堵の溜息 をもらして車を走らせる。
「…うん……」
頷く私は窓の景色を眺めながら、昨日の記憶を 思い出していた。
あの時、私は確かに走っていた。
何かから逃げるように必死で、しかも泣いてい たような気がするんだ。
でも、何で走っていたのか、何で泣いていたの か、そこが全く思い出せなくて。
大事な事をわすれているようでスッキリしな い。
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