夢の始まり

4/28
前へ
/150ページ
次へ
「お前、どうしたんだ?その傷」 卓郎が目を見開き私の頬と腕のガーゼをまじま じと見つめる。 「あぁ、これ?実は昨日、危うく車に跳ねられ そうになって……。あっ、でも間一髪の所をお 兄ちゃんが助けてくれたみたいなんだ。あんま り記憶ないけどね」 掌でガーゼを隠しながら答える私の手に、卓郎がそっと自分の手を重ねた。 「跳ねられそうにって、お前。大丈夫なのか? 頭とか、どっか打ったりとかはしてないの か?」 「それは大丈夫。でも、この顔ちょっと恥ずか しくて……。本当は休みたかったんだけど、今 日の講義は外せないからね」 「ほんと気をつけろよ」 私の頭にポンと手を乗せた卓郎は、安堵の溜息 をもらして車を走らせる。 「…うん……」 頷く私は窓の景色を眺めながら、昨日の記憶を 思い出していた。 あの時、私は確かに走っていた。 何かから逃げるように必死で、しかも泣いてい たような気がするんだ。 でも、何で走っていたのか、何で泣いていたの か、そこが全く思い出せなくて。 大事な事をわすれているようでスッキリしな い。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加