-2163年6月29日-

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ナイフは左から右へと大きく振られ、近衛は後ろに跳びそれを躱す。 ナイフはその勢いのまま、近衛の胴体めがけて突きを放つ。 (今だ) 近衛は少女とすれ違う様に身を翻し、少女の死角に入る。 「あ~もう!ちょこまかと鬱陶しい!」 少女は振り返り、追撃を放とうとした。だがその攻撃は近衛の体に当たることなく、空を切った。 近衛が攻撃を躱した訳ではない。少女の目の前から、近衛の姿が無くなっていたのだ。 「・・・・あれ~?どこいったのかなぁ?」 勿論、これは近衛の能力によるもの。今近衛は少女の目の前にいる。しかし、能力の効果範囲内にいるため、少女は近衛を視認出来ない。 半径1mにしか効果が及ばないとはいえ、近衛の能力を知らないものにとって、これはとても脅威的な能力である。なんせ、目の前に武器を持って立たれても気づけないのだから。 しかし、相手の能力を知らないのは近衛も同じ。そして、近衛にとってその能力は天敵そのものだった。 少女は最低限の動作でナイフを振った。その一太刀は先程の様に空を切ること無く、近衛の体を浅く切りつけた。 「なっ!?」 「そこにいたんだぁ!!」 さらに少女の攻撃が続く。ナイフが勢いよく振り下ろされる。対処しきれず、近衛は右胸から左脇腹を深く斬られた。 「っつ!・・・・」 痛みで蹲る近衛を見て、少女は満足そうに笑っていた。 「ふ~ん、姿を消せるんだぁ。でもざんね~ん、私の力の前じゃあ丸見えなのと同じだよ~?」 (クッ) リュックから東条に渡された小型の銃を取り出し構える。 「ん~?それで私に対抗出来るかな~?」 出来るとは思っていない。だが、生き残るためにはこれしかないのだ。 引き金が引かれ、弾丸が発射される。しかし、弾丸は彼女ではなく、廊下の隅の消火器に命中した。 弾痕から凄まじい勢いで白い粉末が溢れ、2人の視界は白く覆われた。 「ッ!」 近衛の思惑に気づいた少女は、近くの窓ガラスをナイフの柄で叩き割った。 外からの空気と廊下の空気が交換され、視界が段々と澄んでいく。 だが少女の予想通り、近衛はもうその場にはいなかった。
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