-2163年6月12日-

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『近衛研究所』 『人間の五感』についてを主な研究テーマとし、設立から僅か20年で数々の功績を出してきた日本でも有数の研究施設である。 研究所は山奥にあり、一般公開する機会も他の研究所に比べ極端に少ない。そのため、一部のメディアからは人体実験をしているのではないかとも噂されている。 世間への公開が少ない研究所にこうした噂が流れる事は珍しい事ではない。事実、70年前に人工の超能力者が生み出されてから人体実験をする研究所は爆発的に増加している。 体外受精卵に手を加える事で人工的に超能力者を生み出すその研究内容は当時、道徳や人権といった点で論議がされたものの、最終的には人類の進歩のためという事で容認された。 政府からの勅命によりこの研究の責任者は研究内容を世間に公開し、さらに政府は高品質の超能力者を生み出した研究所には援助資金を出す事も発表した。 それから今日まで日本では様々な超能力者が生み出された。 純粋に超能力についての研究がしたい者。 援助資金には興味は無いが自身の研究の成果を誇示したい者。 ただ単に金が欲しい者。 黒い噂が流れるこの近衛研究所はこの3つ全てに当てはまる。 『金も名誉も欲しく、なおかつ超能力に対しての探求心が尽かない。』だから、当然の如く人体実験も行っていた。 この日もいつも通り、近衛研究所では人体実験が行われる。 研究所の中央棟のとある一室。白の壁に覆われたその部屋には必要な機材以外なにも無く、その機材も1人の少年を囲む形で配置されている。 少年の頭にはヘルメットの様な物が被らされており、そこからいくつものコードが繋がっていた。 病院の患者等が着る簡易的な服。少年はこれまでの人生でそのタイプ以外の服を着た事が無い。彼は生まれてからの13年間、ずっとこの研究所に居た。 少年から見て前方の壁がゆっくりと上にスライドし、白の壁からガラスの壁となる。 壁の向こうでは白衣を着た若者や中年の男達が手元の紙の束と少年を交互に見ている。 部屋の一面がガラスの壁になってから少し時間が経過した頃、部屋の隅のスピーカーから声が流れた。
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