-2163年6月12日-

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一般的な道徳や常識を持つ者から見たらこの光景は恐らく、狂気に満ちたものに見えるだろう。 だが、この研究所で研究に携わる者達はこの事に対して何も感じない。 このやり方が最も効率が良く、研究が捗るからだ。 勿論、入所したばかりの新人研究員は初めこそ異論を唱える。 だが、次第に何も言わなくなり、何も感じなくなり、最終的にどの研究員も同じ考えに行き着く。 『化学の発展のためだし、それにここではコレが当たり前』 だから、この少年が瀕死の状態になっても誰も止めようとはしない。実験は続けられる。 「じゃあ次の実験では、うちの班で作った回復薬を被験者に投与し、効き具合と副作用を……ん、ちょっと失礼」 男は言葉を切り、白衣から携帯電話を取り出す。 「どうした。……………あぁ、それで?………そうか、分かった。対処は任せる。幸い、重役の研究員の殆どが今ここにいるから、私達はここで鍵を掛けて騒ぎが収まるのを待つ」 携帯電話から耳を離し、白衣にしまう。 「何かあったんですか?」 1人の若い研究員が尋ねる。 「侵入者だそうだ。詳しい事はまだ分からんが、まぁここで身を隠していれば大丈夫だ」 「侵入者ですか?内部にまで入られるのは初めてじゃあないですか?」 「確かにな。手引きした者もいるかもしれないから後で調べるか。とりあえず、騒ぎが収まるまで実験は休止だ」 その声を最後に、スピーカーから音が消え、機材も停止し、ガラスの壁はもとの白い壁になった。 体に残る痛みのせいで少年は体を動かす事が出来なかった。 いや、『動いても無駄』と悟っていた。 今日の実験は今までのと比べ、明らかにこちらの生死を度外視している。 恐らく、今日で使い捨てるつもりなのだろう。 別に自分が死んでも悲しむ者はいないし、自分がこの世からいなくなっても問題は無い。 だが1つだけ、納得の出来ない事があった。 何故自分が殺されなければならないのか。 悪い事をした訳ではない。誰かの逆鱗に触れた訳でもない。 『化学の発展のため』 そんな理由で殺されるのがどうしても納得出来ない。
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