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バタールのタグをつけ代えてから、俺はそっと彼女に近づいてみた。
彼女はものすごく困ったように必死な顔で、床の隅から隅まで目を凝らしてなにかを探している。
「あの、どうかされました?」
おそるおそる声をかけてみた。言いつつ、袖をまくったのは、せめてものカッコつけだ。
そのすぐ後、カウンターの方から「ちょっと大変、ばれちゃった!」と聞こえてきて、「は?」と俺は訝しげに女の子たちの方をふり向く。が、何のことかと問う前に、目の前の彼女の方が先に俺のほうをはずかしそうにふり向いた。
「ああ、徒弟さん。お邪魔してごめんなさい。あの、この辺りにこのくらいの大きさの赤いお守り袋が落ちてなかったかしらと思って。もしかしたら、今朝こちらに来た時に、落としてしまったものかもしれないんです」
彼女は、人差し指と親指で輪っかをつくってみせた。
どうやらその大きさを見るかぎり、探しているお守りとやらは本当に小さなものらしい。
「お店の方を煩わしてしまうのも嫌だったので、探してどうしてもなかったら尋ねるつもりだったんですけれど」
俺もその辺りを探してみたが、彼女の言う赤い袋はどこにも落ちてなさそうに見えた。
「うちの者に訊いてみるので、少し待っててください」
そう言って、俺がカウンターを向いた瞬間、足をやや引きずって歩く一人の姿が目に入った。
そいつはたった今、奥の住居の方から出てきたのか、栗色の長い髪をゆるくまとめた飾りっけのない姿で、俺と目が合った瞬間に明らかにやましい表情でぎくりとした。
「おい」
呼びかけたとたん、そいつはくるりと背を向けて奥に引っ込んでしまう。……なんだ?
仕方がないので、とりあえずカウンターの女の子二人に訊いてみた。
「赤いお守りを見かけなかった?」
ところがやっぱり期待していたような返事はない。
すっかり落ち込んだ様子の彼女を見て、これが「惚れた弱み」というやつか、俺はどうにか彼女を元気づけようと必死だった。
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