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いいから、と彼女。その後にぼそっと何かを言ったような気がした。
「え、何?」
「だから……だから、私もあんたに悪いことしてたもの。結婚するって聞いた後も、あの子、まだ何度かうちに買いに来てくれていたのを、あんたにだけは隠しておいてってお店の子たちには口止めしてたの」
ははあ。俺は内心で納得する。だから『ばれちゃった』のか。
「じゃあ、それも謝る。変に気を使わせて悪かったよ」
「別に――」
「俺もいつまでもずるずる引きずってばっかじゃ、情けねえもんな」
それには何も答えずに、彼女は突然立ち上がり、店の扉に近づいた。
「もしかしたら外に落ちてるのかもしれないわ」
探し物に関して、彼女の右に出る者はまずいない、と俺は思っている。勘を信じて、扉の鍵を開けて外に出た彼女は、ものの五分とせずに見事小さな赤い布製の袋を見つけ出してしまった。
よかった、と心底ほっとした様子の彼女は、「これきっと指輪よ」と言って、袋の口を開けて中身をてのひらにあける。出てきたのは、本物の、美しいブルーに輝くサファイアのついた指輪だった。
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