5人が本棚に入れています
本棚に追加
帰り道、再び自転車をキーコキーコこぎながら、背中の温もりにひとつ尋ねる。
「そういえば、おまえも青い指輪持ってたよな。首から下げてるの、それそうだろう?」
うん、とそれだけが返ってきた。
「お母さんの指輪なんだっけ?」
「……覚えてたの?」と少し意外そうな声。
「それなのに疑うなんて、俺ほんとに馬鹿だったよなあ」
こぎながら、前を向いたまま言う。
しばらくの間、キーコキーコと聞こえるだけの、でも悪くはない沈黙が続いた後に、背中の彼女は「ねえ」と切り出した。
「もしかして、年上好き?」
「え?」
年上……?
とっさに今までの色んな光景が浮かぶ。パンを持って振り返る姿とか、俺と目が合ってにっこりえくぼを作って笑う顔とか……。
「え、あの子、俺より年上?」
キキーッとブレーキをかけると、同時に後ろからくすくす笑い声が聞こえてきた。
「もう!」と彼女。
「あんたときたら、今更そんなこと! 偉そうなこと言って、全然あの子のことわかってないじゃない」
「だって、おまえだって、『あの子』って」
そうだ、あの人が俺より年上なら、こいつよりははるかに年上ってことになるじゃないか。
「まあ確かにそうだけどね。だって、私よりも背が低くてかわいらしいし、すっごく気さくな人だし、なんだか年上って感じが全然しなかったから――でも、それにしたって、まったく、もう!」
最初のコメントを投稿しよう!