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寒い……。
彼女の声も遠くなり、身体が勝手にガクガクと震えてくる。どうしてか、ものすごく寒気がした。
身体を縮めた拍子に布団を引きはがされて、それなのに俺はもう怒る気力も出てこない。
「もうネタは尽きたでしょう」
「やめろよ……もう、ほっといてくれ……」
布団を掴んで離さない彼女の細い腕を握る。
頭を上げたら、ここ一番の鋭い頭痛が走り、ぐらりと視界が揺らいだ。
えっ、と彼女が驚いた。
ベッドに倒れた俺の顔を無遠慮に覗きこんで、頭に右手を伸ばす。
一瞬殴られるのかと思って身を引いた。ところが、伸ばされた白い手は額に当てられて、俺はひやりとしたその温度に心地よさを感じたのだ。
「すごい熱い……熱があるなら早く言いなさいよ、馬鹿!」
「……なんだ」
ぐにゃりと歪む視界の中、彼女の焦った顔を見て、俺は弱々しく口の端を上げた。
なんだ、風邪を理由に休めたじゃないか。
仕事を休む理由を見つけたとはいえ、言うことをきいてくれない身体はひどく辛く、それ以上笑える余裕なんて俺にはなかった。
これなら、二日酔いで仕事に出ていたほうが良かったのかもしれないと思ったくらいだ。
「タオル濡らして持ってくるから、ちゃんと寝てて!」
慌てて部屋を飛び出す彼女の後姿を、高熱でうるむ目でぼんやりと見て、だけどやっぱりこっちのほうが良かったか、と目を閉じた。
それが、仕事を休めるからという理由ではないことに気づくのは、まだしばらく先の話だ。
「二日酔い」おわり
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