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《ダイル》
カプアッチア王国――
つい先日、魔王討伐を果たし、世界に平和をもたらした勇者。
彼は今、カプアッチア王国の城下町で道に迷っている。
なぜ、迷子になっているのか。
それは今晩、カプアッチア城で開かれるパーティーの主役として呼ばれたからだ。
『理由になっていない』
普通ならば、そういったツッコミがあるべきなのだろう。
だが、勇者様に限ってはそのツッコミが無効化されてしまうのである。
〈ダイル〉は世界を救った伝説の勇者様だが、それと同じく恐ろしい程の方向音痴でもある。
勇者の故郷〈ラスクァール村〉から魔王の居城までは、3ヶ月あれば辿(たど)り着く。
寄り道したとしても、一年以内には到着できるはずだ。
しかし、ダイルは二年半の歳月を要していた。
しかも、旅立つ時に魔王城までの行き先を記した地図を村長から託されていた。
にも関わらず、二年半もかかっていた。
しかし、その方向音痴のおかげで、魔王を倒せたのも事実である。
様々な町を訪れ、魔王と闘うための仲間を従え、魔王に対するための最強の武具を手に入れ、魔王を倒すための技を習得していた。
さらには空飛ぶ船までも入手していた。
そこまでして、魔王を一週間前に倒し、現在に至(いた)る。
ダイルは手に持っている地図を広げ、現在地を確認する。
しかし、現在地が分からないのだから地図を見る意味がない。
そもそも、現在地が特定できるなら道に迷う事はないだろう。
その事には一切気づかず、地図と睨(にら)めっこする勇者様。
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