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《エミリ姫》
「ダイル様はまだ来ないのですね」
夕刻前の空を眺めながら、勇者様が到着するのを待ち焦がれている少女。
少女の髪は長く艶(つや)やかであり、その髪が似合うほどの綺麗(きれい)な顔立ち。
一見すると花嫁を思わせる程の純白のドレス。
いや、実際に彼女が着ているドレスはウェディングドレスであり、彼女の美貌をより一層輝かせている。
なぜ、ウェディングドレスを着ているのか。
それは彼女が、今宵のパーティーで勇者にサプライズを仕掛けようとしているからだ。
花嫁姿で、勇者に愛の告白をする事。
そして婚約の儀として、王家伝統として受け継がれてきたある物を渡すこと。
それが彼女の考えていた計画。
少女の鼓動が早くなっていく。
少女自身もその事には気づいている。
何度も深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせようとする。
だが、心を落ち着かせようとすればするほどに、心拍数が上がっていく。
どうにも出来ずに、仕舞いには頭から湯気が出てくる始末。
そんな少女の姿に少し引きつつも、メイド服の女性が「姫様、そろそろ時間でございます。 会場にて参加して頂いた皆様方に挨拶を」と伝える。
「……分かりましたわ」
顔を赤らめながらも、女性の伝言に応答する少女。
そこに恋する乙女の姿は無い。
居るのは紛れもなく一国一城の姫様であった。
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