序章 紅蓮の名を受け継ぐ者

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広大な砂漠が広がる地に、集落がまとまって存在する場所があった。そこは名門の『能力者』の血筋の一つを受け継ぐトゥデリエンス一族の支配下におかれている集落である。 その一族の館にて、一つの新しい命が、たった今、この世に生まれ出た。 一族の者は、その誕生を祝福した。生まれたその子は族長の孫であった。そして、その子はとても可愛らしい色白の女の赤ん坊だった。 しかし、その三日後、状況が一変する。 族長の長女、つまりその子の母親が亡くなった日、初めて開かれた赤ん坊の瞳は、清らかな水色と澄んだ黄緑色のオッドアイだった。 それだけなら良かった。 だが、彼女の場合、水色と黄緑色の周りを危険を表す黄色が環状に囲んでいた。 一族にとって、それはある人物を彷彿とさせる。 -トゥデリエンス一族の創始者、紅蓮- 紅蓮が生きていた頃、この地は豊かな森だった。他の一族との争いに敗れ、数少ない生き残りの一人となってしまった彼女は、一族の新天地を探す命懸けの旅でこの地に暮らしていた人々に受け入れられる。 穏やかな暮らしの中、紅蓮は一族をここで新たに築くことを決意した。 こうして小規模ながら作り上げた一族を、紅蓮は族長として大切にしていた。 しかし、『能力者』に虐げられていた非公認の『能力者』をかたる勢力が紅蓮の精神を操り始めた。 黒い仮面をつけたその組織は、名門の『能力者』を失脚させる、もとい、この世から排除するという目的と古来からの怨念で成り立っている組織だった。 操られた紅蓮は、暴君のようになり、逆らうものや意見した者達を次々と処刑していった。 そんな長に耐えかねた一族は、遂に反旗を翻した。それを知った紅蓮は正に烈火の如く怒り、激昂のあまりに能力を暴走させ、森の草木を残らず焼き払い、消息を絶った。 その後、森があった場所は枯れ果てた不毛の砂漠と化し、能力が優れていたために生存できた者達は、水や食料に困る不便な生活を強いられるようになった。かと言って、砂漠の外は他の一族の領域であり、抜け出すこともできない。 そんな状況に追いやった紅蓮は、一族にとって忌むべき存在となった。 そして、紅蓮の瞳は生まれた子と同じ色をしていたという。 砂漠では貴重な水と、若葉を思わせる色は平和の象徴。それを危機にさらすことを表すような、黄色の輪が入った瞳。 その子はそれを持つが故に、一族から忌み嫌われる存在となったのである。
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