23人が本棚に入れています
本棚に追加
やあ君か、と少年は少女に向き直り、手の中のキューブを見せた。
「見てくれよ、これ。僕も■(しかくせかい)を創ってみたんだ。」
「知ってるわ。だからちょっと様子を見に来たのよ。」
そう言う少女の手には少年と同じようなキューブが握られていた。
少年の物より色鮮やかに、たくさんの小人が箱の中で動き回っているそれは小さいながらも立派な"世界"を創り上げていた。
そんな少女の箱庭を知っている少年は少し気恥ずかしそうに真っ白な自分のそれを差し出した。
「何よ、まだ何にもできていないじゃない。」
「だって創ったばかりなんだから。これからもっともっと素敵な物を増やして、素敵な世界にするんだ。」
「たとえば?」
唐突な突っ込みに少年は言葉を詰まらせた。
本当に何も考えていなかった、というより考え過ぎてどんな世界を創るのかが決まらなかったのだ。あれもいい、これもいい、そう考えていたら剣と魔法のホラー学園サスペンスなどというわけの分からない話になってしまったから。
「とりあえず、普通の子達が普通に幸せな生活をしてるような、そんな世界がいいかなあ。」
少年にとってダムとイウは、これから創る小人達は自分の子どもと同義だった。
そんな彼らに悲しい世界を与えたくはなかったのだ。
しかし、少女は不服そうに唇を尖らせた。
「だめよ。だめだめ。そんなの面白くないわ。」
「何でさ?」
「普通の奴らが普通の生活をしている様なんて、誰が見てて楽しいのよ。もっと非現実的で、突拍子もないような世界を創らなきゃ誰も認めてなんてくれないわ。」
ふん、と鼻を鳴らす少女に少年は少し腹が立った。
これから自分が創ろうとしていた物を馬鹿にされた気がして、少女を睨み付けた。
確かに少女の■(しかくせかい)は、変てこな小人達に驚く程独創的な世界観で、様々な人々が少女の創り上げた"世界"を面白いと言う。
しかし少年は、少女のその箱庭があまり好きではなかった。暴力的で、陰険だと思っていた。凄いとは認めていても、どうしても好きにはなれなかった。
最初のコメントを投稿しよう!