l.f.s

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   Side『伊島新太 岡崎高校一年』  僕は一目で人を好きになってしまう。  一目惚れなどあり得ない。  一目でその人の何がわかるというのか。  という人がいる。  でも、人が人を好きなるのは理屈ではない。    僕の場合、一目惚れをしてもそのほとんどが片思いで終わってしまうのが悲しいところだが、それでも人を好きになったということにかわりはない。    一目惚れで一番問題になるのが、    環境の違う人を好きになることだ。  これはやっかいだ。  クラスが違う。    学年が違う。    学校までが違うと、とんでもない。    それはもう会うだけでも大変なことになる。  もし、僕がそういうスペシャルレアな人に一目惚れをしたならば・・・  その人を見ているだけの片思いの恋で終わってしまう。  厳しい恋の現実に立ち向かっていく勇気は僕にはない。  受け入れてもらえなかったときのあの破滅的な感情に立ち向かえるほど僕の心はタフじゃない。  しかしながら、一目惚れはやめておこうと思っても、コントロールできるものでもなく、出会い頭の交通事故のように、突然、やってくる。  身構える暇はない。  恋はアクシデントだ。  そして、僕はまた一目惚れというアクシデントにまきこまれた。    × × × ×   京阪三条駅の地下ホームに電車の発車を告げるメロディが鳴り響いている。  僕は大きな鞄を肩にかけ、階段を一段とばしでおりていく。    急がなくてはいけない。  発車のメロディが鳴り止む。  僕は「淀屋橋」行きの特急列車に乗り込んだ。    列車の扉が静かに閉まる。 「ふー」  ため息をつく。  10分後には次の列車が来るのだから、それほど急ぐことはないのだが、今はどれだけ家に早く帰れるかが問題なのではない。  僕は車内を見渡す。 「いたいた」  6人掛けの座席に彼女が座っている。  これが今回のアクシデント・・・  いやいや一目惚れをした彼女だ。  18時47分発のこの特急列車の2両目にちっちゃな体の彼女はいつも乗っている。  なんとか今日も間に合った。  車内は会社帰りの人、学校帰りの学生でやや混み合っている。  僕はドアの前に鞄をおろすと手すりにもたれかかり、彼女が見える位置を確保する。  彼女は黒色のシートに座り、いつものように文庫本を読んでいた。  紺色のブレザーの制服。
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