l.f.s

4/34
前へ
/34ページ
次へ
 その日の18時47分。  京阪三条駅。  彼女はホームの乗車位置の列の先頭に立っていた。  僕はその列の後ろに立っていた。  18時47分発淀屋橋行きの特急列車がやってくる。  扉が開くと、彼女は列車に乗り込み、空いている6人掛けのシートに座った。  僕は扉付近の床に鞄をおいて、顔を上げた。  その時だ。  初めて僕と彼女の視線があったのは。  でもただ視線があっただけである。  彼女は鞄から取り出した文庫本に目を落としていた。  そして軽くくしゃみをしたの覚えている。  それから三週間だ・・・    × × × ×  僕は彼女のことで頭が一杯である。  授業中も。  バスケ部の練習の時も。  家に帰っても。  彼女のことが頭から離れない。  当たり前だが、彼女の名前は知らない。  どこの学校の人かも知らない。  でも、僕の心は彼女でうめつくされている。  一目惚れ進行中。  彼女を眺めているだけの状態がよろしくないことは僕にだってよくわかっている。  今度こそ一目惚れを片思いで終わらせたくない。  なんとかして、彼女と話がしたい。  ごく自然に彼女と話せる方法はないものだろうか。  ああ、悩ましい。  もんもんとした日々が続いた。  しかし、チャンスは、突然にやってくるものである。  僕はその日も寄り道はせず、18時47分発の淀屋橋行き特急列車に乗るべく駅に向かっていた。    だがその日は部活が早く終わったので発車時間までに余裕があった。    いつもはぎりぎりの時間で駆け込み乗車ばかりだが、今日は歩いてゆっくりと地下ホームへの階段をおりていくことができた。    電車はまだ来ていない。  少し時間が早いためにまだ乗車位置には人は並んでいない。  しかし、彼女はもうすでに乗車位置の先頭に立っていた。    胸に衝撃のようなものが貫いた。  心拍数が急激に上がり、頭に血が上っていくのが自覚できた。    そうなのだ。  今なら彼女の真後ろに並ぶことができる!  そう思うと心臓が破裂しそうなくらいに膨らんでいく。    僕は、ゆっくりと彼女に近づき、彼女の後ろに立った。 「!!!」    言葉にならない感動が全身を駆け巡った。    こんなに接近したことは今までにはない!  僕より背の低い彼女の頭のてっぺんが見える。    彼女の頭の頂を見ているだけで幸せな気分だ。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加