l.f.s

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 妙に興奮してくる。  そのとき18時47分発の淀屋橋行き特急列車がホームに入ってきた。  8両編成。2ドア車の赤と黄色の車両がすっとホームに入ってきて、彼女と僕の前に止まる。    扉が開く。  彼女が先に、続いて僕が車内に入った。  空いている6人掛けのシートに彼女が座った。    僕は思わずその場に立ち止まった。  「!!!」  彼女の隣の席が美事に空いている!  二度目の衝撃が僕の全身を貫いた。  彼女の横に空いているその小さな空間を見ただけで僕の心拍数はさらに上昇する。  彼女の隣に座るべきか、座らざるべきか。  あまりにも接近しすぎると極端に緊張しやすい人間である僕は死んでしまう可能性がある。  僕の頭の中はビジー状態になった。  そのとき僕の後ろに並んでいた乗客たちが次々と車内に乗り込んできた。  これから空いている座席の取り合いが始まるのだ。  それは勇気というより、勢いであった。  僕は意識を取り戻し、彼女の隣の席に急いで座った。  予想通り緊張のゲージは一気にレッドゾーンに突入した。  手のひらには汗がにじみ、膝が小刻みに震える。  僕は彼女を見ているだけでも緊張してしまうのである。  それが今は彼女の隣に座っているのだ。    やはり死にそうなくらい緊張した。  この極度に緊張する体質が僕の恋愛をいくつ阻んできたことか!  呪わしい自分の体。  僕は好きな人を前にすると極端に緊張してしまう。  うまく話せなくなったり、きょろきょろしたり、挙動不審になってしまうのだ。  それらはすべてこの極度の緊張のせいなのだ。  生まれ持った性格だから仕方がないが、自分自身に怒りを感じる。  この臆病者め!  列車の扉が閉まり、ゆっくりと動き出す。    彼女は僕の隣に座っている。    いつものように鞄から文庫本を取り出して、読んでいる。    発車の時、列車が揺れて、彼女の肩が僕の体に触れた。  頭の中が真っ白になった・・・  もうこれだけで十分だ。  三週間の張り裂けそうな思いも昇華されたというものだ。  もういい。  これでいい。    僕は緊張に負けてしまっていた。 「くしょん」  彼女が軽くくしゃみをした。    僕の体は緊張してかたまったまま、正面に座っているおばさんを凝視している。 「へっくしょん!」  彼女がまたくしゃみをした。  
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