0人が本棚に入れています
本棚に追加
ーはぁ、はぁ………。
あたしは全力で走っていた。
(もう!なんでこんな目に…!?)
だんだんと息が切れはじめ、口の中は鉄の味がし始めた。
だけど絶対に足を止めるわけにいかない。
「待ってよ!ウサギさんっ」
あたしを追いかけてくるのは水色のドレスを着た可愛い女の子。
茶色の髪、白と黒のボーダーのニーハイ 。
その外見は小さい頃に絵本で読んだ ““不思議の国のアリス””に出てくるアリスにちょっぴり似ている。
(だ、だけど…、)
ーチラッ
なんとか後ろを振り返れば、女の子の小さな可愛い手にはあまりにも不釣り合いな物騒なモノが握られている。
(あれって、斧…だよね?)
なんでアリスがそんな物騒なモノを!?
…いや、あの子がアリスであろうとなかろうと、こんな昼間から自分の身長ほどもある斧を持って追いかけてくるなんて普通じゃない。
普通なわけがないでしょ!
それに、さっきからあたしのことを白ウサギとかなんとか言ってくるし。
ー絶対に、やばい人だ…。
(あれ?そういえば、今日はいつもより早く走れるような…?)
そんなことを考えていたのも束の間。
ふいに眼前に広がった景色に、あたしは足を思わず止めてしまった。
「これは…?」
草原の真ん中にぽつんと佇んでいる一本の樫の木。その根元には大きな穴が開いている。
おそるおそる覗き込んでみると… 、
いったいどこまで穴が続いてるのかわからないほど、深い深い、暗い穴。
ふと気がつけば私を追いかけていた足音がすぐ傍まで迫ってきていた。
「ウサギさん!やっと追いついた!」
「…やばっ!」
ーー飛び込め!
耳元で誰かの声がした…ような気がした。
「う……。」
前には謎の暗くて深い穴。
後ろには物騒なモノを持って追いかけてくる女の子。
「…ぇえい!殺されるよりはマシ!」
もう、どうにでもなれ!
そんなやけっぱちな気分であたしは目の前の穴へ飛び込んだのでした。
最初のコメントを投稿しよう!