梟が笑う

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あの子には、生まれつき感情がない。 喜びや悲しみ、そして痛み。人が生きていく上で必要なすべて。 様々な検査をしたが、原因はわからなかった。 ただ、あの子には何もない、その事実だけがそこにあった。 それは、父親の暴力に対しても同じだった。 父親に腕を折られた時も、あの子は顔色一つ変えなかった。 あの子の父親とは2年前、あの子が6歳の時に離婚した。 原因はDV。 あいつは酔うとすぐ、私やあの子に暴力を振るった。 元々は優しい人間だった。真面目だけが取り柄だった。 ただあいつは……弱かった。 事業に失敗し、酒とギャンブルに嵌った。 お決まりの転落コース。 現実逃避の中で、怒りの矛先が私とあの子に向けられた。 酒を飲み、暴力を振るう。疲れたら寝て、起きたらまた酒を飲む。そして暴力。繰り返される負の連鎖。 すべてを失ったあいつにとって、私達への暴力だけが、唯一の存在意義となっていた。 私と別れた後、あいつが精神病院に入院したと聞かされた。 仕方ないと思った。あいつはすでに、心も体もボロボロだった。 ずっと前に、壊れていたのかもしれない。 
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