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その日の会話を振り返り、悲しみや痛みを排除することを一つの才能だとして、僕はそういったものを、完全性不完全生物と名付けることにした。
それがどんな生き物なのか僕には想像もできない。けれどイメージとして抱くのは、なんだか冷たくて、鋭くて、暗い、たとえるなら冬の夜のような、そんなものだ。
そいつは確かに完全だけれど、僕はどうにも、そうなりたいとは思わなかった。悲しみや苦しみはときとして捨ててしまってもかまわないと思えるが、捨ててしまったものは、たぶん、二度と戻ってはこない。世界とはそういうものだ。
だから僕は僕のままで、この悲しみは悲しみのままで、今でもずっと抱えて生きている。
才能が一つ多いほうが、才能が一つ少ないよりも危険である。ニーチェもそういっているのだから。
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