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「悲しみや苦しみ、そういったある種のもやもやを抱えることをどうしようもないとするならば、君は、それらを排除した、完全な人間になりたかったと思えるかい?」
フジモトがそういうので、僕は考える。たとえば今の僕から悲しみを取り除いたとして、それで僕はどうなってしまうのだろうか。それは僕だろうか。それとも別の、僕でない誰かなのだろうか。
「そういった姿を僕は想像できない。けれどこの悲しみがなかったら、もしかしたら僕は、悲しいのかもしれない」
「悲しみを排除された人間は、悲しくなんてなれないぜ。そもそも」
フジモトはそこで言葉を区切って、虚空を仰いだ。といってもここは彼の部屋なので、真上にあるのはただのつまらない天井だ。
「そもそもそれは、人間ですらないのかもしれない」
それは植物だろうか。それは機械だろうか。それともそれは僕たちの想像もできない、まったく違ったなにかおぞましいものなのだろうか。
怖いと僕がいうと、俺もさと彼はいった。
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