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「盗み見とは、大した趣味だね、ぜん?」
透き通ってるのに、オレの名前を呼ぶとき、少し甘く延びる和波の癖に釣られて。
ゆっくりと振り返ると、そこには、いつものように柵越しに顔を覗かせる和波。
だけど、その和波の顔は。
いままでに見たこともない、妖艶なを笑みを浮かべていて。
謝ろうとしたけど、言葉が出なかった。
「……かず、は?……」
数秒、時間が流れてようやく搾り出したキミの名前は。
無意識に疑問符を浮かべていて、キミの言葉の続きを求めている。
ほら。
もっと何か言ってよ。
オレの好きな、その声で。
もしも。
「男と付き合ってるの、バレちゃった?」
なんて、軽く言ってくれたら。
こんなにオレもキミも、
苦しくなる事なんて、なかったのに―…。
「善だけには…、知られたくなかった…」
和波は、それだけ呟いて。
オレの前から消えたていった。
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