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総司は無意識のうちに庭へと出ていた。
今日はもう休まなくては明日の支障をきたすとわかっていながら、総司は気づけば庭を歩いていた。
「蓮…?」
気づけば井戸の近くまで来ていた総司は、月明かりではっきりと映し出された、着物を血に濡らした少女を視界に捉えた。
総司はゆっくりと蓮に歩み寄る。
蓮は総司の方へ視線を向けると、直ぐに視線を反らした。
「何をしていらしたのですか?」
「手を洗っていたんです」
「そうですか……」
それ以降は沈黙だった。
ただ少しだけ冷えた風が二人の間を通り抜ける。
その風はどこか二人の間に壁を作っている様にも感じた。
「「あの…!」」
やがて発した言葉は、重なって終わる。
蓮が口を開かないのを見てとると、総司は再び口を開いた。
「あの…無理にとは言いません。だけど、もし良ければ教えてくださいませんか。
貴女が何処の誰で、どういう経緯でここに居るのか」
やっと言えたその言葉の返事を、総司は緊張しながら待つ。
貴女の事が知りたくて、こんな不躾な質問をする私を許してください。
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