99人が本棚に入れています
本棚に追加
「そう、そうやって逃げ回ってよ」
雨音に紛れて、しかし何故稔麿はこんなにも通る声をしているのだろうか。
敵に背を向け、逃げてばかりの私は愚かだ……
鈴璃はこんな私を見たら何て言うだろうか。
きっとよく頑張ったねって笑うんだ……
そして、風邪引くよって心配そうな顔して怒るんだろうな……
「どうして、稔麿は…」
鈴璃を殺したのですか
そう言おうとして、私は言葉を飲み込んだ。
そう問いかけて、私はどんな答えが欲しかったのだろうか?
どんな理由があっても、私は許すことが出来る筈がないのに。
どう返ってこようと、ただ悲しみを突きつけられるだけなのだ。
「私は立派な殺し屋の筈なのに、人の死に悲しむなんて……一族の恥だな」
──いいか、蓮。命は重いんだ。その命を奪って俺達は生活している。父さんは自分のこの一族を誇りに思っているが、蓮…人を殺すことを誇りには思うな。
不意に、亡き父の言葉が頭を過った。
幼い頃に聞いた父の言葉は私には理解できないものだった。
私の生きる道を否定する、悲しい言葉……
「でも、今なら少しだけ貴方の言葉が理解出来るんです」
稔麿は人を殺すことを誇りに思っているのですか?
涙で歪む視界の中、私は必死に走り続けた。
.
最初のコメントを投稿しよう!