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走ってどのくらいが経ったのか。
京の入り組んだ道をただひたすら、前だけを向いて走った。
走り始めてから一度も、私は後ろを振り返らなかった。
稔麿の姿を捉えることもなく、もう道など分からない屯所へ向けて足を動かした。
平助は、助けを呼んでくれたのだろうか?
そもそも、私のために割くような兵など居ないような気がした。
こんなに走り回ったんじゃ、見つけられる筈もないか……
どしゃ降りだった雨が、少しだけ小降りになってきた気がした。
しかし、雨は一行に止む気配がない。
私は走る速さを緩めることなく適当な角を、左へ曲がった。
「きゃっ……」
角を曲がったのは失敗だっただろうか。
突然飛び出した私は誰かにぶつかってしまう。
思い切り尻餅をついてしまったが、私はゆっくりしている暇などないのだ。
こうしているうちに、稔麿が追い付いて来てしまう。
次に捕まってしまえば、今度こそ私の命はないはずだ。
「大丈夫ですか」
相手がそう言って手を差し出したのと、
「お仕舞いだね」
稔麿の声が聞こえたのは、殆んど同時だったかもしれない。
稔麿の声に少しだけ絶望しながら、私は相手の手を掴むと顔を上げた。
「やっと見つけました」
そう言って相手は私を抱き締める。
「どうして、貴方が居るんですか…」
「今日は…非番でしたから」
今日は非番ではないはずだ、だから私は貴方を誘わなかったもの。
その言葉が嘘だと知っていながら、それでも私は安心していた。
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