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「初めて蓮に会ったのは蓮がいくつの時だったでしょうか…
貴女が齢十にも満たない頃だったのはよく覚えています」
総司はもう10年も前になる記憶に小さな笑みを浮かべると、眠る蓮へと語り始めた。
「初めて貴女を見たときは、人形の様だと思いました。
泣きもしなければ笑うこともない。貴女が何を見ながら生きているのか、私には理解できなかったんですよ」
私はいつも理解できない。
貴女の思いも、貴女の苦しみも、私は何一つ当てることすら出来ない。
「ずっと、貴女に聞けないことがありました……10年前、試衛館へ現れた貴女は何故5年前…何も言わずに姿を消したのですか」
いつか、貴女の口から聞けるときが来るのでしょうか?
貴女は鈴璃がおそらく…もう本当は亡くなっている事すら、正直に言ってくれないというのに……
「どうやら私は我が儘な様です。
貴女の事なら何でも知っていたいと思ってしまう。憎たらしい感情がどんどん沸いてくるのです……
でも本当は少し、嬉しかったのですよ。貴女がこどものように泣いてくれたことが嬉しかった。
久しぶりに再開した貴女は、初めて出会った時と同じ顔をしていた……また昔の貴女に、戻ってしまったのではないかと心配したんです。
でも貴女はもう、人形では…ないのですね」
泣きそうな、だけど決して悲しいわけではなく少し寂しそうな笑みを浮かべて、総司は屯所への門を潜った。
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