すれ違う指先

10/26
前へ
/177ページ
次へ
膝を抱えてどれくらいが経ったのだろうか。短かった気もするし、長かったような気もする。 ただ、今の自分にはとても長い時間が経ったような気がした。 急にふわりと、肩に何かを掛けられる。 優しい匂いに包まれながら、これが総司の羽織であることに気づいた。 「………」 何が言葉を掛けようとして開いた口を、私は何も言わずに閉じてしまった。 言いたいことは沢山あった。 だけどどう言葉にすればいいのか、私には分からなかった。 「蓮、起きていらっしゃいますか」 小さな音や気配で、総司が隣に座るのが分かる。 総司はそのまま私の肩を抱くと、自分の方へと引き寄せた。 「もうすぐ秋も半ばです、風邪を引いてしまいますよ」 「……ご迷惑を…おかけしました…」 必死に絞り出した声はとても小さくて頼りなかった。 本当はそんなことが言いたかったわけじゃないのに…… .
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加