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「蓮、説明しろ」
一言土方さんが言葉を発する。
一言だが、その声音は鋭くとても冷たいものであった。
「何をですか?」
無表情は崩さずに私は理解できなかったふりをする。
「どうしてお前は吉田稔麿と繋がっていやがった」
私の返答に、土方さんが少し苛立った様子で稔麿の名前を出した。
稔麿だと、気づかれてしまったのか……
気づかない筈がないか……
「答える義務はありません」
それでも私は告げるつもりはなかった。
これは私が一人で終わらせるための、自分勝手な我が儘だから……
「それはどういう事だ」
土方さんは冷静を装って言葉を紡ぐ。しかし言葉の節々に、苛立っている様子がひしひしと感じられた。
「人には触れてほしくないものがあるではないですか。
土方さんが句を書いているのと同じですよ。梅の花~…一輪咲いてもってやつです」
私は土方さんが密かに書いている句を途中まで口にする。
「おい、待て。何でお前が知ってやがる…っとそうじゃねえ。
何で知ってやがるか問いただしてやりたいが、事の重大さを考えろ。
今はお前のおふざけに付き合っている場合じゃないんだ」
「確かに私は吉田稔麿とは知り合いですよ。しかし、私にとっては稔麿と知り合いなのと、土方さんが句を書いている事を知られたくないと言うのは同じくらいの重要さです」
私の言葉に、土方さんは手がつけられない子どもを相手にするかのような深い深い溜め息を吐いた。
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