すれ違う指先

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「わかってて言っているのか……お前は今は疑われているんだ。 外に出たいと言ったお前が吉田と会ってやがるんだからよ」 額に手を当てて参ったように土方さんは口を開く。 「稔麿は私が愛した、今最も殺したい男です。 心配しなくても私は間者ではありません。だいたい、もし間者なら平助に人を呼ばせたり私が気を失ったり馬鹿な失態をするはずがないでしょう」 そう言って私は立ち上がる。 もう聞かせる話などないと言うようにその場を後にしようとする私に、土方さんは制止をかけた。 内心で舌打ちをしながらも、立ったまま土方さんに顔を向けた。 「おい、言いたいことはわかった。だが、愛したとは何だ」 「貴方は人の色恋沙汰に口を挟むほど無礼な人間なのですか。 そのような人間に話して聞かせる話などありません」 そう冷たくあしらう私の隣から笑いを噛み殺したような声が聞こえる。 隣に視線を向けると、総司が肩を震わせていた。 「どうして笑っているのですか」 「ふふ…もう我慢できない…!ふふ、ははは…あはははは、あー可笑しい」 「おい、総司何を笑ってやがる!」 「いえ、土方さんは蓮が相手だと何時も話の主導権を蓮に握られてしまいますから、話が可笑しな方向へ進んでいって話が段々と面白くなっていくんです」 総司の言葉にその場の緊張が一気に緩んだのがわかった。 .
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