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「はぁ……ったくよ
緊張感のねえやつだな二人は」
土方さんが溜め息を吐いてそう言った。その言葉にさっきのような鋭さはもう感じなかった。
私は再び土方さんの前に腰を降ろす。
その場に正座をして、ただ土方さんを見つめた。
「蓮、仕事だ」
唐突に土方さんにそう言われる。
何か雑用が必要になってきたのだろうか……
「お茶でも入れてきてほしいのですか」
「お茶はいい。
それよりも最近京で行われている辻斬りは知っているか」
突然始まった物騒な話に私は眉を潜めた。
噂では知っている。新撰組の隊士も何人か斬られたと聞いている。
私は姿勢を正し、土方さんに答えた。
「噂は耳にしています。しかしあくまで噂です。なので詳しいことは何も」
「そうか、その辻斬りはどうも長州のやつの仕業らしい。
お前が間者じゃないのなら、お前は勿論斬れるはずだ」
辻斬りを行う者を始末する事。それが私に与えられた仕事の様だ。
土方さんは私を疑っているのだ。言葉一つで簡単に疑いが晴れるわけがない。行動で示せと言うのだ。
再び張り詰めた空気のなか、蝋燭の火だけがゆらりと揺れた。
「まっ、待ってください土方さん!
蓮を一人で行かせるつもりですか」
私が答える前に、慌てた様子で総司が口を開く。
「いいや、総司と二人でだ。
総司、もし蓮がおかしな行動を取れば辻斬りもろとも始末しろ」
話は以上だと言うように、土方さんは机へと向き直る。
私に拒否権が与えられていない事を理解すると、私は土方さんの部屋を後にした。
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