すれ違う指先

15/26
前へ
/177ページ
次へ
「はぁ……ったくよ 緊張感のねえやつだな二人は」 土方さんが溜め息を吐いてそう言った。その言葉にさっきのような鋭さはもう感じなかった。 私は再び土方さんの前に腰を降ろす。 その場に正座をして、ただ土方さんを見つめた。 「蓮、仕事だ」 唐突に土方さんにそう言われる。 何か雑用が必要になってきたのだろうか…… 「お茶でも入れてきてほしいのですか」 「お茶はいい。 それよりも最近京で行われている辻斬りは知っているか」 突然始まった物騒な話に私は眉を潜めた。 噂では知っている。新撰組の隊士も何人か斬られたと聞いている。 私は姿勢を正し、土方さんに答えた。 「噂は耳にしています。しかしあくまで噂です。なので詳しいことは何も」 「そうか、その辻斬りはどうも長州のやつの仕業らしい。 お前が間者じゃないのなら、お前は勿論斬れるはずだ」 辻斬りを行う者を始末する事。それが私に与えられた仕事の様だ。 土方さんは私を疑っているのだ。言葉一つで簡単に疑いが晴れるわけがない。行動で示せと言うのだ。 再び張り詰めた空気のなか、蝋燭の火だけがゆらりと揺れた。 「まっ、待ってください土方さん! 蓮を一人で行かせるつもりですか」 私が答える前に、慌てた様子で総司が口を開く。 「いいや、総司と二人でだ。 総司、もし蓮がおかしな行動を取れば辻斬りもろとも始末しろ」 話は以上だと言うように、土方さんは机へと向き直る。 私に拒否権が与えられていない事を理解すると、私は土方さんの部屋を後にした。 .
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加