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「覚えていますよ。忘れられる筈がない。
人の生を奪ってしまうことがこんなにも簡単で、こんなにも恐ろしいと初めて知りました。
剣術を教わる事も、稽古もとても楽しかったです。近藤さんの為なら、この手も幾らでも血に染められるとそう思っています。
だけど私は、一度だって人を殺すことを恐ろしいと思わなかった事はないんです。
何時だって怖いのですよ」
そうはにかむ様に微笑んで語る総司の横顔が、月に照らされてとても美しかった。
満月の美しさと優しい総司。私は何処か似ていると思った。
「総司は…優しいのですね」
私には理解できないでいた。
人を斬ることを、恐ろしいと感じたことがない。
殺しは遊びだ……
遊びは楽しまなくてはいけない。そう教えられてきたのだから。
「私はとても、冷たい人間ですよ。
そういう蓮は覚えているのですか」
そう言って総司は苦笑する。
向けられた質問に、私は正直に答えるべきなのだろうか…
「覚えていますよ……私が初めて人を斬ったのは齢五の時です。
殺しは遊びだと教え込まれて育て上げられた私は、吹き上げる血の美しさにはしゃいでいました。
今日みたいな美しい月の夜です。
真っ赤な血が月明かりによく映えていました。
私にとって、人を斬るということは子どもがかくれんぼをして遊ぶことと変わらないのです」
私には総司のような美しい心は持っていない。
月明かりに照らされた自分が、酷く醜く見えた。
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