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「人を斬ることが、悲しいと…思ったことはないのですか?」
総司は少し遠慮がちに口を開いた。
私はその言葉に、小さくくすりと笑う。
「そんなに控え目に聞かなくても、怒ったりなんてしませんよ。
そうですね……私にとっては人を斬ることが日常でしたから、そのように感じることがなかったです」
そう言葉を吐いて、幼い頃の記憶と鈴璃を刺し殺す夢を思い出す。
この思いは、胸の奥底に仕舞っておかなければいけない。
私は直感的にそう思った。
「そんなのは、嘘です。貴女は今とても悲しい顔をしている。人を殺して平気な人がそんな顔をするはずがありません。貴女は…優しい人ですから」
真っ直ぐな総司の言葉に、私は顔を上げた。
いつの間に私は顔を俯けて、総司の足元を見ていたのだろうか。
「嘘ではありません。私は、何も感じない人形でいいのです。真っ赤な血に染まる人形は……とても美しいでしょう?」
「蓮……」
総司は私の名前を呼ぶと口をつぐんだ。
何か言葉を探すように、視線をさ迷わせている。
「そろそろ、行きましょうか。早く行かないと辻斬りの方とすれ違いになってしまいます」
月明かりを背に私は自分の部屋へと刀を取りに行こうと、総司の横を通りすぎた。
総司は何も言わなかった。ただ悲しそうに私の言葉に従い刀を取りに自室へと向かった。
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