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どれくらい走ったのだろうか。
私は京の町の地理は把握しておらず、何処を走っているのか見当がつかない。
目的地は教えられていない。
お前が知る必要はないと、土方さんに意地悪をされている。
「まだ着かないのですか」そう口を開こうとした時、総司が唐突に立ち止まった。
「此処です」
小さな声で呟いた総司に、私は言葉を返す。
「…此処って、誰もいないですけど」
「しー…黙って」
総司は自分の唇に人差し指を当てて呟くと、それっきり何も喋らなくなった。
私は何も教えてもらえない事を悟り、辺りに集中する。
耳を傾けていると、遠くから僅かな足音が聞こえた。
足音は全部で五つ。
隠そうと必死なその足音は、静まり返った町にやけに不自然に響いた。
その不自然さに、これが辻斬りのものであると直ぐに気づく。
私は静かに刀を抜く準備に入ると、総司の合図を待った。
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