すれ違う指先

21/26
前へ
/177ページ
次へ
どれくらい走ったのだろうか。 私は京の町の地理は把握しておらず、何処を走っているのか見当がつかない。 目的地は教えられていない。 お前が知る必要はないと、土方さんに意地悪をされている。 「まだ着かないのですか」そう口を開こうとした時、総司が唐突に立ち止まった。 「此処です」 小さな声で呟いた総司に、私は言葉を返す。 「…此処って、誰もいないですけど」 「しー…黙って」 総司は自分の唇に人差し指を当てて呟くと、それっきり何も喋らなくなった。 私は何も教えてもらえない事を悟り、辺りに集中する。 耳を傾けていると、遠くから僅かな足音が聞こえた。 足音は全部で五つ。 隠そうと必死なその足音は、静まり返った町にやけに不自然に響いた。 その不自然さに、これが辻斬りのものであると直ぐに気づく。 私は静かに刀を抜く準備に入ると、総司の合図を待った。 .
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加