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「ねえ総司。隠れているより偶然を装って出向いた方が早いですよ。
向こうから仕掛けてくれたら正当防衛になって楽ですし」
「それはそうですけど……って、待ってくださいよ蓮!」
小声で総司は私を引き留める。
だけど私は総司の言葉を無視して歩き始めた。
今日はよく冷えるから、じっとしていたら折角温まった体が冷めてしまう。
「勝手なことをして土方さんに怒られても知りませんからね」
総司は渋々私の隣を歩いている。
緊張感の無い人だ……そんな検討違いの事を考えながら「はいはい」と適当に相槌を打った。
「それよりも、蓮はわかるんですか?
私は行き先など教えていませんけど」
適当にあしらった事を気にすることなく総司は質問を投げ掛けてくる。
もう静かにするつもりは無いようだ。
「足音が聞こえるんです。全部で五つの足音がこちらへ向かっています。それがおそらく辻斬りでしょう」
私の言葉に、総司は一瞬驚きで目を見張った。
「そうですか。では気を抜かないようにいたしましょう」
「はい。そうですね、逃がしてしまえば怒られちゃいます」
そう口にした二人の目はこれから起こるであろう事に嬉々と輝いていた。
これから子どもがかくれんぼをして遊ぶような無邪気さに溢れたその瞳は、月明かりに照らされて妙に不自然に映っていた。
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