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「蓮…泣いているのですか?とても悲しそうな顔をしています」
私は力を失ったようにその場に座り込む。総司は私を離さなかった。それどころか、抱き締める力が少しだけ強くなる。
「総司……血で汚れてしまいます」
「気にしないでください」
優しくそう言った言葉に、私は辛くて胸が痛んだ。
「気にします……私は汚いのですよ。
私は汚れているのです」
「蓮は汚れてなんていません。蓮はきれいですよ」
そう言って優しく子どもをあやすかのように背中をゆっくり撫でられる。
その行為に心地よさを感じながらも、どうしようもない悲しみに襲われて、今にも泣いてしまいそうだった。
『おかえり、蓮』
『鈴璃、抱き締めない方がいいわ。
私は汚れて汚いから……』
『蓮は汚くなんてないわ。蓮はとてもきれいだから』
どうして貴方はこんなにも、鈴璃と似たような言葉を紡ぐのですか。
だから私はこんなにも貴方の側に居ると安心するのに、鈴璃と重なって見える貴方が怖くて仕方がないのです。
「総司……これ以上私に優しくしないでください。優しい言葉をかけたりしないでください。
私は貴方の側にいるのが怖いのです。
私は…!汚いままでいいんです…優しくされる価値なんて無いんですよ。
もう、これ以上関わってはだめです」
私は総司の胸を強く押し返し、総司の腕から逃れるように立ち上がると笑いかけた。
これが総司に見せる最後の笑顔にしようと、強く心に決めて。
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