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井戸で水を汲んで手拭いを浸す。
それを緩く絞り顔や首筋に飛び散った血を拭った。
こびりついた血が水に溶けて手拭いを汚すと、それに合わせて私の顔はきれいになっていく。
最後に桶に手を突っ込んで手を洗った。
骨身に染みるほどの冷たさでは無いものの、もう秋半ばだ。井戸の水に心地よさなどは無く、指先が痺れるくらいには冷たかった。
ぶるりと体が震える感覚に、私は桶から手を出して水を捨てる。
月明かりに照らされた両手が、元の色白い少女の手に戻っている事を何故か歪む視界に捉えた。
「…私は人を斬った事が悲しかったわけではありません。
人を斬った後、抱き締めてくれる貴女が居ないことが悲しかったのです」
私は誰に言うでもなく、口を開いた。
自分の心根を表に吐き出せるのは今も昔も変わることなく貴女だけだったから。
これは依存だろうか…?
私は自分の目に映るものから目を背ける為に、月明かりに背を向けた。
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