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屯所に帰ってから、総司は土方さんに呼ばれた。
「では、行って参ります。
もう夜も遅いですから、蓮はゆっくり休んでくださいね」
総司は蓮に言葉をかけた。蓮からの返事は返ってこず、一人土方さんの部屋へ向かった。
総司は月明かりに照らされた廊下を一人で歩く。
土方さんの部屋へ向かうその足取りは、何故だか重たかった。
土方さんにどのように話せばいいのだろうか。
見たままを話せば良いのだということは分かっている。しかし、余りにもあっという間に…驚くほど淡々に行われ過ぎた。
目の前で繰り広げられた光景が、凍るように冷たく、蓮のあの剣術が震えるほどに美しかった。
美しいその剣術の中に、怒りに任せて振られた刀の刀身が、黒く煌めいて心を惹き付ける。
そしてそれ以上に、真っ赤な鮮血の中心に佇む蓮がとても綺麗だった。
とても綺麗で、この月明かりに溶けて消えてしまいそうで悲しかった。
「貴女はどのような気持ちで刀を握っているのですか」
あの時貴女は確かに怒っていた。我を忘れていた様に思う。
何に怒りを感じて、何に悲しんでいて、そして最後に……何故貴女は微笑んでいたのですか?
どうして最後に、貴女は私に微笑んだのでしょうか。
貴女に向けられた思いに、いつになったら気づけるのだろうかともどかしい思いでいっぱいだった。
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