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「おー、めっちゃいい!なにこれ凄い!」
爽やかな夏風が吹いた。
瀬田川 湊は揺れる茶色い髪の毛を右手で軽く抑え、誘われるように真っ青な空を見上げる。
ざああん、ざああん、と押し寄せてくるのは、透き通ってその下の砂の揺れでさえも認識できてしまうような美しい地球の恵み。
青い空、白い砂浜、美しい海、体中を包むのは潮の香り。まるで物語の1ページのような風景が、そこにあって、ここは果たして現実世界なのだろうかなんて。
そんなことを彼女は思う。
「すっげえな、これ」
「本当だねえ」
そんな湊の意見に賛同するように、眼前の大海原に目を細めるのは朝比奈 蛍。
隣の卯月 叶人は、宝石のように輝く砂をさらさらと弄びながら、この空に負けないくらい爽やかに笑った。
「それにしても本当に……どうなってんだサニーホームズの連中は。海に行きたいよなーって話をして、その日のうちに何種類も候補地を提案してくるなんてよ」
まったく、と肩を竦めつつも嬉しそうな蛍に、湊は「だよねえ」と返す。
そう、ここはサニーホームズの住人のプライベートビーチ。
そして、ここでは一カ月後に夏休みを利用した合宿が企画をされている。企画者である彼女たちは、そのための下見でここにいるのだ。
企画というものは、話し合って予定さえ組めば良いものではない。実際そこに足を運ぶことで、紙面上だけのそれらはようやく現実味を帯びてくるのである。
食材の調達方法、現場までの交通便、気候、その地域の人間性……、こればっかりは、実際目で確認して肌で感じて見ない事には意味がない。
しかしながら。
「これ、来る必要なかったな」
と、蛍。
叶人、湊がそろって頷いた。
こんなに美しい景色に加え、少し歩くと大型スーパーがあって。
道に迷った時は優しく道案内をしてくれる優しい近隣住人、移動なんて七宮 悠矢が知り合いに一言言っただけでサニーホームズの前から一日に何本も出るようになった。
完璧すぎる。
三人は嘆息する。
「何言ってるんですかぁ!これだって、大事な大事なお仕事ですよ!」
そんな三人に、遠くから駆け寄って来る人影があった。
頭の上のリボンが、一歩踏み出すたびにぴょこぴょこと揺れている。
くりんとした大きな瞳の少女、小峯 かえで。
彼女はすでに砂浜についていた3つの足跡に4つめの跡を付け足しながらこちらにやってくると、にっこりと笑んだ。
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