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*** 急に機嫌を損ねた姉に、僕は首を傾げながらちょうど部屋に入ってきた優華に目を向けた。 彼女は姉に言いつけられたとおりに布を濡らしに行ってくれたようだ。 その手には真っ白の綺麗な布が握られている。 「まったく、あの方はどうなされたのか」 仕方がない人だと、笑いながらそう呟く。 しかし、彼女からの返事がない。 優華は、常に僕の発言を一言も聞きもらすまいとしていた。 僕と言葉を交わすことを楽しいと言ってくれる彼女の微笑みにはいつも癒された。 つい勉学の話などをしてしまった時には、一生懸命考える彼女の姿を愛らしいと思ったほどだ。 そんな彼女が僕の言葉に返事をしない。 それを不審に思い彼女の方を見ると、彼女は俯いていて、その表情は僕には分からなかった。 「…優華…?」   そっと名を呼ぶと、彼女ははっとしたように顔を上げた。 揺れる瞳が、僕をとらえた。 今にも泣き出しそうなその表情に、僕は一種の危うい美しささえ感じて、息を呑んだ。 「どうしたの?」   静かに問いかけると、彼女はなにも言わずに頭を振った。 涙を呑むように笑顔を浮かべる。 「なんでもないんです」   なんでもないわけがない。 そう分かっていながら、僕は彼女になんの言葉も掛けてあげることができなかった。
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