2

17/35
前へ
/295ページ
次へ
あたしを止めようとする侍女を振り切って部屋に入ったあたしは、自らの父の情事を見てしまった。   母が死んで間もないのに、他の女と…。 呆然とするあたしを見て、父は侍女に言った。 『なにをしておる、邪魔だ、連れて行け』   そう言われ、今まで頭を下げていた侍女が動く。 腕を取られ、あたしは慌てた。 まだ、ここに来た本当の目的を果たせていない。 『お、おとうさま…ッ』   うっとうしそうな目を向けられ、一瞬だけひるんだ。   だが、今はそんな場合ではない。 『なにゆえ、…なにゆえ、かあさまのそうぎにこられなかったのですかッ?』   女の顔に手を当て、父はこちらを見ようともしない。 女の顔に唇を這わせながら、父は何事でもないかのように言い放った。 『何故、わしが行かねばならぬのだ』   その言葉は、どんないいわけよりも胸に刺さった。   嘘でもいい。 なにか母の死を悼む言葉が欲しかった。 父もあたしと同じように母を愛していたのだと思いたかった。
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加