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「…あたしは、なにもできていません」
そんな風に謙遜する必要はない。
そう言うのに、彼女はそれを謙遜だと認めない。
「あたしがこんな風にするのは、なにも戴輝さまのためではないのですよ」
絞った布を、僕の頬にあて、そっと拭う。
濡れた布の感触に、さわやかな気持ちになる。
優華は丁寧に僕の顔、続いて首へと布を滑らせながら、言葉を続けた。
「あたしが、こうしていたいのです」
そう言って作業に集中しようとする優華を見ていると、なんだか胸が締め付けられ、心地よい痛みを感じる。
…僕も、ずっとこうしていたい。
優華と一緒に、いつまでもいたい。
僕は、それが叶わないことを知っていながらも、それでも願うことをやめられなかった。
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