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女は泣きそうな目でわたしを見つめながら、とぎれとぎれの声で言った。
「…あ、あた、しは…、そんな、こと…っ」
ついに涙があふれてしまった。
なんともあさましい。
涙を流せばなんでも許されると思っているのか。
悪いがわたしは、そこの男どものように簡単には騙されぬ。
しかし、状況はこの目の前の女に有利なものだったようだ。
「姫君、まだ優華の仕業だと決まったわけではありませんよ」
「そうです姉上、そんなふうに決めかかっては優華がかわいそうです」
女の涙を見て、男ふたりは急に態度を変えた。
今まで黙ってわたしの言葉を聞いていたのに、女が泣くと、わたしの方が悪いかのようにこぞって女をかばい始めた。
…なんと嘆かわしい。
男達はすっかりこの女に騙されているようだ。
とはいうものの、奏多がこの女の共犯であるという可能性はある。
こうなってしまった以上、この男を疑わないわけにはいかぬ。
証拠はないが、十分にあり得る話だ。
だがその時のわたしは、なによりもまず男達がこぞって優華の味方をしたことに腹が立った。
わたしがなおも言葉をつづけようとしたその時。
急に戸が開いて、男が入ってくる。
父の側にいつも使えていた忠臣の一人だ。
男は真っ青な顔をして呼吸を整えると、慌てたような声でわたしに申し上げをした。
「蓮の侍女が、たった今自ら命を絶ったようにございます」
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