プロローグ 11月5日(月曜日)

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というより、汚れている部屋を綺麗にした時の爽快感が堪らなく好きだ。 普段ならホウキで教室の隙間を縫うように掃くだけでいいのだが、ついついやる気が出てしまい、雑巾がけまでしてしまった。 黒板もチョークの痕が残らないよう念入りに拭いた。 あとは窓拭きとワックスがけをすれば完璧だが、流石に一人でそれをこなすには時間がないので断念。 掃除をしなくてはいけない理由は分かっている。 恭子先生から帰りのホームルームが終わる直前、「あなたは放課後、教室掃除ね」と冷たく言い放たれたのだ。 だが原因が分からない。その疑問を解消すべく、教室の窓際の列。 上から二つ目の机の椅子に腰かけながら、見慣れた背表紙を着けた本を読む友人に話しかける。 「なぁマサ。どうして俺は放課後に一人、教室の掃除をしているんだと思う?」 その問いに、マサこと崎本雅信(キシモトマサノブ)は本に栞を挟みパタンと閉じると、 「そりゃあ翔、決まってるさ。恭子先生にあんなこと言えば、掃除ぐらいやらせたくなる」 そう言って、メガネの縁を中指で押し上げた。 無機質なナイロール形メタルフレームに、テンプルの色も黒と無機的かつ知的な印象を与えるそのメガネは、まさにインテリメガネだ。
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