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この雨はいつになったら止むのだろう。
荒れ果てた王国の中で、ビショビショになるのを、全く気にもしないで
たった一人、少女はガレキの上にすわり込んでいた。
雨の音以外、ほかには何も聞こえない。
自分の鼓動以外、息づく音さえも。
どうしてこんなことになったのだろう。
頭では分かっていても、心がついていかない。
目だけが虚ろに宙をさまよう。
涙さえ枯れ果て、全てを拒絶する。
この雨が止んだら、きっと日の光は何事も無かったかのように、
この王国に降り注ぐ。
少女はそれを直視することが出来るだろうか。幾千の人の抜け殻を、原形さえとどめていない家々たちを撃ち落とされた鳥の死骸を。
見た瞬間に叫び声を上げ、気を失うかもしれない。…だが、それでも少女は
見なければならない。真実を掴みかけた者として。
(…寒い…な)
体の芯まで冷え切った動きの鈍い脳で考える。意識が薄れ、強烈な眠気が襲ってくる。このまま眠りに身を委ねてしまえば、どれだけ楽か。これから自分を覆うように流れてくる運命の濁流。世界を背負うより重くのしかかる使命から逃げ出せるなら、この身が朽ち果て思考を捨ててしまいたい。でも少女は生きなければならない。考え続けなければならない。最後が喜劇でも、悲劇でも。理不尽な世界の中で生き抜くために。
しかし、終わりも終わり、始まりが始まろうとしているそんな中で、彼女はこと切れる寸前だった。だらりと垂れ下がった腕はあきらかに折れていたし、えぐられた腹は向こう側が見えてしまうほどの穴が開き、そこから止まることなく血が流れ、雨と交って流れていく。
(やば…い…もぅ…意識が…)
さらに歪み始めた世界。
もはや、自分と雨と大地の区別もつかない。
グラリ、と倒れる寸前。遠くに見えた、一人の影。
小雨になってきたその中を走ってくる、少女と同じくらいの背丈の人。完全に意識がなくなる前に少女の耳へと伝わり、頭の中に響き渡る声。雨上がりの朝焼けの崩れた王国の中に、咎められることなく、こだましていく。
「ライラッーーーーーー!!」
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