彼氏

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「彩菜里。そこ、間違ってる」 ちょっぴり低めのあまーい声が、わたしを目の前の現実に引き戻す。 「えっ? うそっ。どこがっ?」 慌てて視線を机の上のプリントに落とせば、 「ここ。これは、5の2倍じゃなくて、5の2乗。この前も、同じトコ間違えてただろ?」 なんて、呆れた様な声が向けられて。 「……だったっけ?」 「さーらーさー?」 「ご、ごめんっ。けどわたし、どうしても数学ってダメで……」 「そんなこと言ってるから、いつまでたっても数学が出来ないんだよ。彩菜里は、自分自身に、数学が出来ないって暗示をかけてるだけっ」 「そんなことないもん……」 「あるよ。苦手意識持ってたら、出来るものも出来ないんだから。何事も気持ち次第っ」 「む――っ」 頬を膨らませ、拗ねてみせるけど、目の前のその人には全然相手にしてもらえない。 そればかりか、 「それに、このままだと、明日の追試は絶望的っ。そうなったら、日曜日のデートはキャンセルだからな」 と、残酷なお言葉。
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