0人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
雨音の少女
沙織さんとはじめて出会ったのは、耳の中まで雨が入るほど、それはそれは酷い梅雨の季節でした。
墓地の主という仕事を押し付けられた僕にとっては、そんな「客」は正直迷惑でありましたが、
雨に晒される彼女が、何故か心細く見えてしまい、僕はつい、声をかけてしまいました。
「もし」
「…はい。」
「お嬢さん、風邪を引きます。」
「……はい。」
「お嬢さん、泣いているのですか。」
「…いいえ。」
「でも、あなたの長い睫毛が」
「…雨のせいです。」
「雨、…あがりませんね。早く帰ったほうが良いかと思います。」
「…私…彼氏を探しているのです。」
少女がそう答えた瞬間に、彼女は墓地で倒れてしまいました。
酷い熱です。
最初のコメントを投稿しよう!