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少女を担いだ途端、僕の瞳に、彼女の容姿が映りました。
今にも壊れそうな人形のよう、と言えば良いのでしょうか。
真っ白な頬に張り付いた長い黒髪から、雨音がさらにか細く響きました。
なぜかこの少女を見ていると、甘く、くすぐったいような、例えようのない…懐かしい気持ちでいっぱいになりました。
彼女が目を覚ましたのは、その2日後のことです。
ぱちりと大きな瞳が開いた時、僕は心臓が飛び出るかと思いました。
もし僕に心臓があったなら、の話ですが。
推定年齢17歳の彼女は、僕の登場にきょとんとしています。
「…あなた…だれ…?」
少女は警戒しているのか、詰め所のベッドのシーツを手繰り寄せています。
僕は解答に苦しみました。
僕には正式な名前が無いからです。
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