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学生寮に囲まれた広い通りは、まるで住宅街である。
真っ黒なゴム性の地面を歩みながら、少年少女はのんびりと登校していた。
「あー、またワイシャツ着たまま寝てたでしょ? しわしわじゃん!」
「睡眠時間を三十秒ほど引き延ばす為の些細な犠牲だ。やむを得ないだろ」
呆れるところだが、生憎レナは馬鹿である。
「うーん、これは意見が割れそう。三十秒じゃなくて一分なら私もシャツ着て寝てたかなぁ」
「一分ってお前、それは幾らなんでも話が良すぎるだろ」
などと周りに誰もいないのが幸いな会話を繰り広げている最中、突然の発砲音が一帯を支配した。
常人なら腰を抜かすであろう轟音に対して、二人は驚くこともせず。
「発砲訓練か……。俺らも早く魔導軍に入らねぇとな」
道の途中、備えられた運動場に視線を送りながら少年が呟いた。
「資格試験いつだっけ?」
「あと二ヶ月先だ。そもそもお前の成績じゃ試験うけるのも危ういぞ」
「……明日から本気だす」
魔導式軍隊。齢十五から取得できる『魔導士』の資格があれば入隊可能。
そもそも、魔導士などという資格が何故存在するのか。
それは後に語られるだろう。
そして、二人は十数分ほどで目的地へとやって来た。
「さて、今日も頑張るか」
「無難に程々に、怪我しない程度に頑張ろー!」
しかし、目先の校舎よりも手前。目前たる位置にて鉄製の校門が二人の歩行を阻止するのだった。
「なんで閉まってんだ?」
その問い掛けに、レナが腕に巻いた時計を覗いてみせる。
「あ、もう朝礼始まってる時間じゃん」
「……」
現実という絶望に、少年は膝から崩れ落ちた。
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