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石畳で舗装された街並み、建造物はレンガや石造りばかりで、近代の雰囲気などカケラもない。
年中気温は上がらず、十日に二度は雪がちらつき、役人は今日も溜息を吐きながら凍死した「家なき者」の固まった腐敗することのない死体を、それを持つことを専用とした厚手の手袋をはめた手で、億劫そうに、無造作に、無遠慮に、引きずっていく。
ここ数日降り続けた雪が、芯まで冷えきった(芯なんてものがあればだけれど)石畳の上を占領し始め、その領土を徐々にしかし確実に増やしていっている。
作物は寒さに強い一部の葉菜や根菜、酸味の強すぎる木の実ぐらいしか育たず、おまけに土が貧しいので「食べられるだけマシ」な惨状。
畜産もあるにはあるが、貴重すぎて農家を除く一般庶民の手元に存在するわけがない。
伝統的な工芸は廃れ、目を見張るような技巧も技術も持たない――終わっていくだけの街……のはずなのだ。
「はずなのに…ねぇ」
真っ白な息を吐きながら呟いて、緩やかな坂の上を見やる。
衰退し続け、終わりに向かって日々、毎時毎分毎秒と邁進しているはずのこの街には「富裕層」が存在する。
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