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「ごめんね。こっから先にはイッショにいけないんだ。
ボクのイエでマってて、キたミチをもどるだけだから」
少年がもう一度「ごめんね」と言って、二人は別れた。
女性をそこに残し、少年はかつて門だったものをまたいで進み、廃墟も同然の建物へと入っていく。
玄関をくぐり、ひび割れた石の床を歩く。
正面の崩壊してしまった階段を無視して右へ、廊下を歩いて一番手前の木製の引き戸に手をかける。
廊下に沿って同じような扉がいくつかあるが、今ではここしか使われていない。
戸と壁の隙間から弱々しい光が漏れているので、すでに誰かいるのだろう。
講師か、生徒か、もしくはその両方が。
手袋をしていなければ皮膚が張り付いてしまいそうに冷たいドアレバーを下ろしながら、そっと手前に引く。
キィ…と冷たい音がして、当然戸は開く。
「よぉっ…オセぇな」
人間臭くて生温い空気と共に流れるしゃがれ声に、少年は一切の表情を消した――まるで雪の様に。
そんな少年の変化に気付くこともなく、声は続く。
「調子はどうだい? ユキ女!」
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