その日の晩の話

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「………」 「見るからにオタク気質じゃん!コイツぜーったいヤバいって!超根暗そー友達いるんかな」 「あ、それお前が言うんだ?」 「嗣巳ったら酷いわ」 “1年生B組:上川 翔太” ビン底眼鏡は…たまにお洒落の一つとしてかけているが写真の彼は前髪ボザボサできっちと制服も着こなしている。 おまけにそこから見える容姿も明らかに平凡としか言いようがない。 それでも、 「かわいい…」 「は?」 写真にしろ、こうやってじっくり顔をみたのは初めてかもしれない。 まさか彼がファンクラブに入っていたとは思わなかったけど、中々愛嬌がある顔をしている。 呟きが聞こえていた友達は「マジ!?」という顔をしていたが俺は、気にとめない。 「ただの平凡君っしょ。嗣巳ならもっと選べるのに…」 「でもこういう子の方が、俺は好き」 「そういやお前は地味線だった。でも、よりによってコレ系かぁ」 誰になんと言われようが、俺は彼ともっと親しくなりたい。 「翔太君かぁ…」 でも残念ながら彼は一年生。 ほとんど俺と会う機会もないし、ファンクラブに入っているとはいえ消極的なのか姿を現すこともない。 それでも今度は俺から彼を探してしまった。 それから一週間後…ようやく彼を見かける機会があった。 (…あ!) 移動教室の途中、ようやく見つけた。 そして彼もこっちに気づいたようで、ばっちり目があった。 「こんにちは」 今度は逃がさない。 にっこりとほほ笑むと、彼はすぐ顔を真っ赤にして俯いてしまった。 「こ、こんにち…」 蚊の鳴くように小さな声だったが、その控えめな態度が俺の趣向を刺激する。 (やっぱり小動物みたいで可愛い)  警戒されないよう、なるべく愛想笑いしつつ近寄ろうとした時――― 「こ、こんにちは!」 「吉田先輩ですよね!?」 「こんにちは。よく知ってるね。君達一年生?」 わらわらと1年の女の子たちに囲まれてしまった。 翔太君も自分じゃなく彼女たちに挨拶したのだと思い込んでしまったのか、そそくさと逃げるようにそこから立ち去ってしまった。 (あーあ、いっちゃった…) 残念に思う反面その後ろ姿に、不覚にもときめいてしまったのだった…。
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