帰省

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真鍋先生は担任ではなかったが、理科の教諭で、生徒会の顧問もしていた先生だ。 校舎の中は、在籍していた頃と変わらない。 古びた鉄筋コンクリートの壁には当時と変わらないヒビが見てとれた。 「失礼します。真鍋先生いらっしゃいますか?」 軽くノックをし、職員室の戸を開けると、教頭先生の席に座っている男性教諭が返事をした。 「はい、私ですが…。」 「お久しぶりです。先生、誰かわかりますか?」 「ヒントは稔の同級生。」 「ミノル?田中先生の…。書記の山本ミキか?」 「正解!先生、教頭先生になられたんですね。」 「山本くんは、関西におるって聞いてたけど?」 「法事で里帰りです。」 「独りか?」 「残念ながら。」 「仕事が楽しいですか?」 「ですね…。」 「じっくり、考えて答えを出しなさい。まだ間に合うなら。」 「はい…。」 「たぶん、一つは答え出てるんです。もう一つをどうしようかと…。」 職員室の戸が開き、生徒が入ってきた。 「教頭先生、体育館の施錠済みました。」 「はい。気を付けて帰りなさい。」 「はい。失礼します。さようなら。」 生徒の後ろ姿を優しく見送る目は変わらない。 生徒と入れ違いに稔の姿が見えた。 生徒に手を振っている。その姿は真鍋先生と同じ優しい目をしていた。 「真鍋教頭、施錠確認終了しました。お先に失礼していいですか?」 「はい、結構ですよ。気を付けて山本くんを送って行って下さい。」 「はい。お先に失礼します。」 「先生、じっくり考えてみます。」 頭を下げ職員室を出た。
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